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第17話  ふぐの仲間たち  シリーズその②

2015.6.21 カテゴリー:とらふぐのあれこれ, ふぐの種類と生態

ハリセンボン(フグ目・ハリセンボン科)

【学名】Diodon holocanthus Linnaeus
【分布】本州以南の太平洋、世界中の暖流域、熱帯海域に分布。

ハリセンボンの稚魚たち

ハリセンボンの稚魚たち



 

天草を泳ぐハリセンボン

天草を泳ぐハリセンボン



最近、ハリセンボンと言えば、魚ではなく女性芸人の〝ハリセンボン〟を連想する人が多いのではないでしょうか。私も個人的に2人が大好きですが、あくまでふぐの仲間〝ハリセンボン〟について紹介します。

 

ハリセンボン

ハリセンボン♡



 

名前は、皮膚にたくさんの棘があることで、「針千本」という和名に由来します。

また、沖縄ではハリセンボンのことを「アバサー」と呼び、「アバサー汁」は郷土料理の一つとして挙げられます。台湾ではハリセンボンの刺身や、棘を抜いた皮の湯引きが名物です。

全長は30cm程で、ハリセンボン科の魚は、6属約20種類程が知られています。体色は、ほぼ黒っぽく、腹部と鰭が白色です。体全体に鋭く長い棘が密生し、お腹を膨らませて棘で自衛します。

 

【特徴】

ハリセンボンの棘は、鱗が変化したもので、敵から身を守ると同時に自分の体を大きく見せるのに役立ちます。実際の棘は、針千本ではなく、約350本と言われています。

本来は熱帯性の魚ですが暖流に乗って北上し、水温が低下する冬季に海岸へ大量に打ち上げられることがあります。これは海水温が低すぎるため、もともと熱帯性の魚なので水温の急激な変化に対応できないためです。

また、ふぐの仲間ですが、毒は持っていないので、ふぐ調理師免許を所持していない者でも調理は可能です。

 

第17話は、ここまで。第18話をお楽しみに。

天草海産 3代目 〝福の宅配人〟太田雄三

 

 

 

 

 

 

第16話  ふぐの仲間たち  シリーズその①

2015.6.10 カテゴリー:とらふぐのあれこれ, ふぐの種類と生態

クサフグ(フグ科トラフグ属)

【学名】Takifugu niphbles(Jordan et Snyder)

【分布】日本各地(北海道を除く)

天草の海を泳ぐクサフグ

天草の海を泳ぐクサフグ



 

砂地に潜るクサフグ

砂地に潜るクサフグ



 

日本人に最も身近なふぐと言えば、クサフグでしょう。釣人は、餌の取り名人の為、嫌いな人が多いと思います。それでは、クサフグについて紹介します。

名前の由来は、背面が緑色っぽいことから、クサフグと呼ばれています。砂地に生息する

ことから、「スナフグ」と呼ばれることもあります。また地方では、スズメフグ、アカメフ

グ、ショウサイフグなどと呼ばれています。

背中は暗青緑色に小白班が散布しており、腹面は白く、胸鰭上部と背鰭の付け根には黒色

斑があります。また、全身に小棘が密生しています。

小型のふぐですが、筋肉は弱毒で、皮、精巣共に強毒です。特に肝臓、腸、卵巣は強毒です。

 

【特徴】5~6月の満月の日に砂地の入江に群れをなして産卵します。産卵の前には産卵場所に、偵察として何匹かが現れて安全かどうかを確かめます。安全と確認したうえで産卵が始まります。クサフグの産卵はとても特徴的で、まず、雌が産卵したところに雄が一斉に放精し、海水が白く濁ります。産卵は一時間ほど続きます。私も2~3回、クサフグの産卵を目にしたことがあります。とても神秘的です。今年こそは、産卵シーンを写真におさめたいものです。

 

第16話は、ここまで。第17話をお楽しみに。

天草海産 3代目 〝福の宅配人〟太田雄三

第15話  天草海産陸上とらふぐ養殖場の空中撮影!!

2014.10.18 カテゴリー:とらふぐのあれこれ, ふぐの種類と生態

天草海産陸上とらふぐ養殖場

とらふぐの知識もなく、周囲に反対され、陸上とらふぐ養殖に挑戦を続けて15年・・・。

海面とらふぐ養殖は、当時熊本県が全国1位の生産を誇っていました。とらふぐの陸上養殖は、誰も成功した事例がありませんでした。とらふぐの生態の勉強から、病気や台風との闘い、マルハニチロさんとの餌の共同開発事業、営業活動など、沢山の方と出会いがあって今があります。

8年ほど前から、陸上とらふぐの需要が急速に加速し、この7年間で陸上とらふぐ養殖場も3倍に大きくなりました。ただ簡単に養殖場が3倍になったと言っても、コストは4倍ほどに膨れ上がり、日々行っている餌やりや歯切り、出荷、加工など、管理面でも多忙を極めました。

日の出から日の入りまで、365日とらふぐと対話をしてきた日々・・・。

この空撮を見て、とらふぐと共に歩んできた15年が報われたと同時に、これからもとらふぐと歩み続ける決意が湧いてきました。やっぱり、とらふぐ最高!

http://youtu.be/j3VbXVyjx6s



第15話は、ここまで。第16話をお楽しみに。

天草海産 3代目 〝福の宅配人〟太田雄三

第14話  天草とらふぐの稚魚受入から出荷まで -成魚編-

2014.9.18 カテゴリー:とらふぐのあれこれ, ふぐの歴史について, ふぐの種類と生態

水槽を泳ぐ〝天草とらふぐ〟の水中写真です。

水槽を泳ぐ〝天草とらふぐ〟の水中写真です。



陸上とらふぐ養殖に関する歴史は浅く、どの養殖業者が最初に陸上養殖を始めたかは定かではありません。天草海産は、平成10年(1998年)から陸上ヒラメ養殖から、陸上とらふぐ養殖に転換しました。当時は、陸上とらふぐ養殖の前例がほとんどなく、専門家も〝陸上ではとらふぐ養殖は難しい〟という判断でした。陸上とらふぐに挑戦を始めて5年は失敗が続き、生態の勉強や飼育密度、病気への対応など無我夢中でとらふぐと対話してきました。現在は、陸上とらふぐ養殖業者も約50社となり、弊社と同じように陸上ヒラメ養殖から陸上とらふぐ養殖に転換したケースが多いようです。

ちなみに日本のとらふぐ養殖は、昭和39年(1964年)に山口県水産試験場で生産された種苗で始まり、昭和56年(1981年)には収穫量が100tを超え、平成9年(1997年)には約6000tに達しました。その後、収穫量は年々減少し、平成16年(2004年)には4300tとなり、ここ数年は4500t前後で推移しています。



それでは13話に続き、14話のとらふぐ成魚編をお届けします。

成魚は、冬から春にかけて餌食いが低下し、肝臓も肥大傾向となるため、斃死することもしばしばです。養殖において、生存率(歩留り)が安定生産の鍵となるため、水温の急激な変化(ストレス)やとらふぐの体調管理に重点を置くことが大切です。4月は新しい稚魚を受け入れるため、成魚水槽にお引越しをします。この際も、過度のストレスがかかるため、丁寧かつスピーディーに水槽間の移動をします。



水温が20℃を超える6月からは少しずつ餌食いが良くなり、24℃の9月には餌食いがMAXになります。しかし、過度の餌を与え続けると寄生虫や病気の原因となるため、とらふぐの健康管理が第一となります。とらふぐの適水温度は22~24℃であり、この時期に成長を促す必要があります。また、8月~9月はとらふぐの骨格形成の時期であり、体長が伸びます。この時期に寄生虫や病気が出た場合、骨格形成が不十分となるため、出荷時期が遅くなるケースもあります。10月からは体長の伸びに加え、魚体重も増加していきます。海水温度が20℃を切る11月から、とらふぐの雄の白子が成長を始め、2月に1番大きく成長します。この時期から市場からとらふぐ身欠きや、贈答品の注文も増えていきます。また、2kg以上のとらふぐになれば、白子が500g以上になることもあるため、注文が殺到することもあります。

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とらふぐの出荷は、業者より指定サイズの注文が来るため、水槽に入りタモ網で1匹1匹丁寧にすくいます。とらふぐを見た瞬間にサイズが分かるまでには、5年以上は経験が必要です。出荷は主に魚を運ぶ活魚車で行います。活魚車には、トラックに水槽が完備され、酸素や水温の調節もできる特別な車両です。市場や加工場への水槽搬入の際も、傷がつかないよう、丁寧に行います。

第14話は、ここまで。第15話をお楽しみに。

天草海産 3代目 〝福の宅配人〟太田雄三

第13話  天草とらふぐの稚魚受入から出荷まで -稚魚編-

2014.9.17 カテゴリー:とらふぐのあれこれ, ふぐの種類と生態

水槽を泳ぐ〝天草とらふぐ〟の水中写真です。

水槽を泳ぐ〝天草とらふぐ〟の水中写真です。



とらふぐのシーズンは、秋のお彼岸から春のお彼岸まで(秋分の日前後3日~春分の日前後3日)と言われています。つまり、9月20~26日~3月18~24日までの時期を、とらふぐのシーズンと言われているのです。これは、成長した天然のとらふぐが産卵のために日本沿岸に近づく時期であり、また、〝鍋の王様〟てっちりと言われるように、温まる料理が恋しくなる、日本のふぐ文化と言えるでしょう。しかし養殖とらふぐは、技術の進歩(飼育方法の改善や餌の品質向上、動物用医薬品の開発)など、通年美味しいとらふぐを提供できるようになりました。とらふぐ=冬、という考え方は、天然とらふぐにまつわる様です。しかし、養殖とらふぐの雄は、秋から冬にかけて白子が成長するため、やはり、冬が旬と言えるでしょう。

それでは、天草海産の稚魚受入から出荷までの流れをご紹介したいと思います。

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稚魚は、4月から5月にかけて受入します。稚魚の体調は約7cm、体重は約10gです。稚魚とは言えども、お腹を膨らませる姿や形、どれをとっても立派なとらふぐちゃんです。4月から6月は、朝方から夕暮れまで5回以上餌やりをします。7月から8月は3回、9月から10月は2回、11月から3月までは、水温に合わせて給餌しない日もあります。とらふぐの状態によって、EP(配合飼料)やMP(鰺や小女子、アミなどを、造粒機(餌を攪拌し、ペレット状に作りだす)を給餌し、健康第一に養殖しています。

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とらふぐを養殖する上で一番大変なことは、歯切りです。歯切りとは、専用のニッパで丁寧にとらふぐの上下の歯を切る作業のことです。歯切りは、5月から7月の間に4~5回行い、春先の3月に1回行います。天草海産は、22~24万匹のとらふぐを養殖しているので、年間の1/4、約90日は歯切りの作業を行っています。歯切りは、眼も疲れますが、何と言っても手作業なので腱鞘炎になることがよくあります。私も4年前に箸も使えない状態になったので、腱鞘炎の手術をしました。とても痛かったです(泣)。とらふぐ養殖=腱鞘炎とまでは言いませんが、〝職業病〟というかっこいい病名をお医者さんから命名されました。

とらふぐの選別作業の様子です。大、中、小にサイズ分けしています。

また、とらふぐの成長に合わせて、分養(間引き作業)を行います。分養の時期は決まっていませんが、飼育密度を調整することにより、とらふぐのストレスを軽減します。天然とらふぐは、奇麗な砂地で悠々と生活するのに対し、養殖とらふぐは、飼育密度の高い水槽で成長していきます。人間にたとえれば、6畳の部屋に5人や10人で生活すれば、ストレスがたまるのと同じです。子供の成長に合わせて、1人部屋を与えたり、リフォームすることと同じ作業なのです。とらふぐも人間と同じように、ストレスを感じれば病気になることもしばしばです。天草とらふぐは、より自然界に近いストレスの少ない養殖を心がけています。

 

第13話は、ここまで。第14話をお楽しみに。

天草海産 3代目 〝福の宅配人〟太田雄三

第12話  とらふぐの毒(テトロドトキシン)について シリーズその③

2014.9.14 カテゴリー:とらふぐのあれこれ, ふぐの歴史について, ふぐの種類と生態

水槽を泳ぐ〝天草とらふぐ〟の水中写真です。

水槽を泳ぐ〝天草とらふぐ〟の水中写真です。



ふぐ毒(テトロドトキシン)については、第3話と第11話で解説してきました。

沢山の方から、ふぐ毒(テトロドトキシン)について、お問い合わせを頂いていますので、最近の動向も踏まえて解説していきます。圧倒的に多い質問です。

・養殖のとらふぐには、ふぐ毒(テトロドトキシン)はありますか?

・ふぐ中毒になればどの様な症状になるのですか?

養殖とらふぐは、配合飼料のEP(エクストルーデッドペレット)や食用の鰺や小女子、アミなどを、造粒機(餌を攪拌し、ペレット状に作りだす機械)で作る、MP(モイストペレット)が一般的です。

初めに陸上とらふぐは、陸上に専用のプールを設け、海水をポンプで汲み上げて養殖を行っているため、餌となる他の食物を口にすることがほとんどありません。

次に海面とらふぐは、筏(いかだ)に網を張り、その中でとらふぐを養殖しています。網の間から入る他の侵入物がゼロではないため、陸上とらふぐより餌となる他の食物を口にする可能性は高くなります。

最後に天然とらふぐは、自然界の海で生活しているため、沢山の種類の餌を食べています。11話でも触れたように、ツムギハゼやヒョウモンダコ、また、数種類の貝類、棘皮動物、甲殻類からもふぐ毒(テトロドトキシン)が検出されており、ふぐ毒(テトロドトキシン)を食べる可能性は、高くなります。

最近の研究で、養殖とらふぐのふぐ毒(テトロドトキシン)について、解明されてきました。

以前は、とらふぐ=ふぐ毒(テトロドトキシン)という考え方が一般的でした。しかし、11話でも触れましたが、谷博士の研究で、①種類差、②臓器差、③個体差、④季節差、⑤地域差でふぐ毒(テトロドトキシン)の強さが異なることは紹介しました。

最近の研究で分かったことは、ふぐ毒(テトロドトキシン)は、食物連鎖によって蓄積されているということです。これは、とらふぐ養殖業者にとって朗報であり、天然のとらふぐと養殖とらふぐのふぐ毒(テトロドトキシン)の強さが異なることになります。いわゆる、内因性(ふぐ毒はふぐ自身が作りだすもの)と考えられてきましたが、外因性(餌を食べて蓄積する)のものであり、食物連鎖に由来することが明らかになりました。

結果、陸上とらふぐ<海面とらふぐ<天然とらふぐの順で毒性が強いと考えられます。

次にふぐ中毒について考察します。

症状としては、4段階に分けられます。

第1度【中毒の初徴】

口唇部と舌端部の軽いしびれで、摂取後20分~5時間以内です。

第2度【不完全運動麻痺】

運動麻痺はふぐ中毒で最も特異とする症状であり、知覚麻痺や言語障害も著名になります。

第3度【完全運動麻痺】

血圧降下、呼吸困難、チアノーゼ(爪や唇が青紫色になる)が現れ、嚥下が出来なくなります。

第4度【意識消失】

意識不明になり、呼吸が停止し、死に至ります。

最後に、ふぐ毒(テトロドトキシン)の特徴について解説します。

①純粋なふぐ毒(テトロドトキシン)は、無色、無味、無臭である。

②水や水に溶けない有機化合物には溶けないが、微酸性の水には溶ける。

③微酸性液中では安定だが、強酸性液中では容易に分解する。アルカリ性液中でも分解し、毒性を失う。

④湿熱及び乾熱に抵抗し、毒性を失わない。

⑤紫外線、太陽光線の照射には抵抗性が大きい。

⑥消化酵素に分解されない。

⑦免疫性が全くない。

⑧動物膜を浸透しやすい。

ふぐ毒(テトロドトキシン)は、本当に怖いですね。ふぐ毒について正確な情報を知っていただき、これからも天草海産は、安心・安全なとらふぐをお届けします。

第12話は、ここまで。第13話をお楽しみに。

天草海産 3代目 〝福の宅配人〟太田雄三

 

第11話  とらふぐの毒(テトロドトキシン)について シリーズその②

2014.8.31 カテゴリー:とらふぐのあれこれ, ふぐの歴史について, ふぐの種類と生態

水槽を泳ぐ〝天草とらふぐ〟の水中写真です。

水槽を泳ぐ〝天草とらふぐ〟の水中写真です。



ふぐ毒の第1人者として、田原良純博士と覚えていただきたい。田原博士は、1899年、日本国最初の薬学博士となり、1907年、分離に成功したふぐ毒を、フグ科の学名 Tetraodontidae(4枚の歯板を持つものの意)と、毒を意味するトキシン toxin から、テトロドトキシンと命名しました。

1950年、横尾晃博士によって、初めて卵巣からふぐ毒(テトロドトキシン)の結晶の抽出に成功しました。1960年代に入り、ふぐ以外の動物にもテトロドトキシンが存在することが明らかとなりました。ふぐ毒(テトロドトキシン)は、奄美大島以南の生息するツムギハゼや、暖海性のヒョウモンダコ、カリフォルニア産イモリ、コスタリカ産のカエルからも報告されています。また、数種類の貝類(ボウシュウボラ、バイ、オオナルトボラ、アラレガイ、ハナムシロガイ)や、棘皮動物のトゲモミジガイとモミジガイ、甲殻類のスベスべマンジュウガ二からもふぐ毒(テトロドトキシン)が検出されており、テトロドトキシンの分布は大きく拡大しました。純粋なふぐ毒の人の対する致死量は0.5~2.0mgと見られており、化学式では、C11H17N3O8、青酸カリの約1000倍に匹敵する毒力だともいわれる猛毒です。現在、フグ毒の検出にはマウス試験法が用いられ、体重20gのマウス(ハツカネズミ)1匹を30分で死亡させる毒量を1MU(マウス・ユニット)と定められています。臓器1g当りの毒量をMUで表したものが毒力(MU/g)です。

ふぐ毒量は次式で求められます。

毒力(MU/g)×その臓器の全重量(g)=毒量(MU)

例えば、臓器100gの抽出毒で体重20gのマウスを100000匹死亡させたとすれば、臓器100g中の全毒量は100000MUで、毒力は1000000MU÷100g=1000MU/gとなります。また、大人1人に対するふぐ毒の最少致死量は10000MUと推定されています。

谷巌博士は、ふぐの毒性を次の4段階に区分しています。

無毒 10MU未満           1kg以下では致死量にならない。

弱毒 10MU以上100MU未満     100gから1kgで致死量となる。

強毒 100MU以上1000MU未満     10gから100gで致死量となる。

猛毒 1000MU以上         10g以上で致死量となる。

更に谷博士は、ふぐには季節差があり、産卵期直前の卵巣や肝臓は最も毒性が強く、産卵後は毒力が減退することを明らかにしています。また、同じ種類でも個々のフグによって毒力の差があり、個体差が大きいのも特徴です。また同じ種類のふぐでも地域によって毒性が異なるという、地域差もふぐの毒性の特徴として最近注目されています。
このようにふぐの毒性または頻度については、①種類差、②臓器差、③個体差、④季節差、⑤地域差が特徴としてあげられます。

最後に、〝ふぐの王様〟とらふぐの最高毒力と最大毒量を紹介します。卵巣は、500MU/gで12000MU、肝臓は、500MU/gで10000MU、最大毒量を合計すると、13000MUとなり、致死人数は13人になります。ちなみに、〝ふぐの女王〟マフグは、最大毒量を合計すると、332400MUとなり、致死人数は33.2人になり、とらふぐの約3倍の毒力になります。また、マフグは皮にも強毒があり、ふぐの種類や部位によってふぐ毒(テトロドトキシン)の強さが異なることを覚えて頂きたいです。また、とらふぐ処理師が調理したとらふぐは、安心安全であることに変わりありません。くれぐれも、ふぐ=毒ではありませんのでご理解ください。

第11話は、ここまで。第12話をお楽しみに。

天草海産 3代目 〝福の宅配人〟太田雄三

 

第3話 ふぐ毒(テトロドトキシン)について:シリーズその①

2014.5.31 カテゴリー:とらふぐのあれこれ, ふぐの種類と生態

水槽を泳ぐ〝天草とらふぐ〟の水中写真です。

水槽を泳ぐ〝天草とらふぐ〟の水中写真です。



ふぐと言えば、すべてのふぐの種類に毒があると思われがちです。しかし、全く無毒のシロサバフグやサバフグ、カワフグ、卵巣や精巣、肝臓や皮に毒があるフグなど、多種多様です。フグ毒(テトロドトキシン)は下記の表の様に、種類の差や地域差、季節差があります。高級なフグは、〝フグの王様〟トラフグ、〝フグの女王〟マフグ、トラフグに似た中型種のカラスが挙げられます。

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日本産フグ中毒学的研究(谷巌)より

ではなぜ、フグは毒を持っているのでしょうか?

長い間フグ毒(テトロドトキシン)は、フグ自身が作りだしていると考えられてきました。しかし近年の研究の結果、食物連鎖(餌)で蓄積されていくことが分かりました。したがって、天然トラフグは毒性が強く、養殖トラフグは極めて毒性が少ない、または毒性が認められなかった、という検査結果が出ています。

天草海産の養殖場では、カラスや猫がトラフグを食べている姿を、何回も目撃しています。それも、内臓だけなんです!!愛情込めて育てたトラフグのことを考えると、ニャロメーと思いますが、これは、無毒に近いもしくは無毒のトラフグの証であると考えます。しかし食通の方は、毒があるからこそトラフグ、という考え方も根強く残っています。

いずれにしても、とらふぐ処理師が調理したとらふぐが、安心安全であることに変わりありません。釣りがお好きな皆さん、ご家庭ではくれぐれもフグを調理して食べられませんように!!

 

第3話は、ここまで。第4話をお楽しみに。

天草海産 3代目 〝福の宅配人〟太田雄三

 

第2話 知られざるフグの生態について 

2014.5.18 カテゴリー:とらふぐのあれこれ, ふぐの種類と生態

フグは、①お腹を膨らませる、②瞬きをする、③噛み合う、④鳴く、⑤砂に埋まる⑥毒を持つといった特異的な習性を持っています。その習性を解説します。

①フグはお腹を膨らませる
お腹を膨らませる習性は、威嚇や自己防衛の際に胃の一部に水や空気を入れて膨張して
います。内臓を包む肋骨が無い為、お腹を膨らますことが出来ると考えられています。1
kgのとらふぐが体重以上も水を飲み込むことが出来るというから驚きです。私は陸上と
らふぐ養殖をしている中で、毎日水槽の中でお腹を膨らませている姿を見ます。威嚇や自
己防衛以外に、リラックスしている時お腹を膨らませているのではないかと考えます。

②フグは瞬きをする
魚には、一般的には瞼が無く、眼は開いたままで、閉じることができません。しかし、
フグは魚の中で唯一瞬きが出来ます。私も養殖をする中で何度も確認しており、特に苦しい時(海水がない場合)、によく見ることが出来ます。浅瀬をダイビングしている時も、クサフグが砂に潜り、眼だけを出していることもあります。

③フグは噛み合う
フグ科のフグの歯は、くちばし状になっており、上下2本、計4本の歯を持っています。
フグは鋭い歯で何でも噛み砕く雑食性です。この噛み合う習性は、天然とらふぐも養殖と
らふぐも変わりありません。フグ延縄漁では、ペンチが用意されており、フグが釣れる
とペンチで歯を折って活魚水槽に入れます。したがって、とらふぐの養殖の際は、歯切り
の作業が必須となります。噛み合いによって尾ひれや腹ひれが出血し、斃死することも多々
あります。出荷までに最低1年半かかるため、約5回歯切りが必要になります。

④フグは鳴く
フグは、空気や海水を胃に飲み込んでお腹を膨らませますが、その膨らます過程でグーグーと鳴きます。飲み込みながら、口を閉じる時に歯が擦れ合って音が出ると言われています。瞬きをする時と同様に、特に苦しい(出荷や歯切り)時に、お腹を膨らませながらグーグーと鳴く姿を見ます。

⑤フグは砂に埋まる
フグは奇麗お腹の部分を砂に埋めて生活する習性があります。陸上養殖の場合、水流が常にあるため、泳いでいるとらふぐが多いが、白子が熟成する1月~2月には、水槽の底にお腹を付けて休憩している姿をよく見ます。先日、下関市立しものせき水族館 「海響館」にとらふぐの生態について視察に行ってきました。とらふぐは、砂に埋まっていて、眼だけをギョロギョロさせていて、これが自然界のとらふぐの生態であることを知りました。

⑥フグは毒を持つ
フグは一般的に毒を持つ魚として知られています。その名は、テトロドトキシンと呼ばれています。フグは、食物連鎖によって食べることにより、毒を蓄積しているメカニズムは、近年解明されてきました。とらふぐは、〝ふぐの王様〟として知られていますが、皮や、身、白子には毒はありません。しかし、〝ふぐの女王〟として知られるマフグは、皮に毒性が強く、総毒量は最大です。また、身にも猛毒を持つドクサバフグやコモンダマシといったフグもいます。

第2話は、ここまで。第3話をお楽しみに。

天草海産 3代目 〝福の宅配人〟太田雄三