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第14話  天草とらふぐの稚魚受入から出荷まで -成魚編-

2014.9.18 カテゴリー:とらふぐのあれこれ, ふぐの歴史について, ふぐの種類と生態

水槽を泳ぐ〝天草とらふぐ〟の水中写真です。

水槽を泳ぐ〝天草とらふぐ〟の水中写真です。



陸上とらふぐ養殖に関する歴史は浅く、どの養殖業者が最初に陸上養殖を始めたかは定かではありません。天草海産は、平成10年(1998年)から陸上ヒラメ養殖から、陸上とらふぐ養殖に転換しました。当時は、陸上とらふぐ養殖の前例がほとんどなく、専門家も〝陸上ではとらふぐ養殖は難しい〟という判断でした。陸上とらふぐに挑戦を始めて5年は失敗が続き、生態の勉強や飼育密度、病気への対応など無我夢中でとらふぐと対話してきました。現在は、陸上とらふぐ養殖業者も約50社となり、弊社と同じように陸上ヒラメ養殖から陸上とらふぐ養殖に転換したケースが多いようです。

ちなみに日本のとらふぐ養殖は、昭和39年(1964年)に山口県水産試験場で生産された種苗で始まり、昭和56年(1981年)には収穫量が100tを超え、平成9年(1997年)には約6000tに達しました。その後、収穫量は年々減少し、平成16年(2004年)には4300tとなり、ここ数年は4500t前後で推移しています。



それでは13話に続き、14話のとらふぐ成魚編をお届けします。

成魚は、冬から春にかけて餌食いが低下し、肝臓も肥大傾向となるため、斃死することもしばしばです。養殖において、生存率(歩留り)が安定生産の鍵となるため、水温の急激な変化(ストレス)やとらふぐの体調管理に重点を置くことが大切です。4月は新しい稚魚を受け入れるため、成魚水槽にお引越しをします。この際も、過度のストレスがかかるため、丁寧かつスピーディーに水槽間の移動をします。



水温が20℃を超える6月からは少しずつ餌食いが良くなり、24℃の9月には餌食いがMAXになります。しかし、過度の餌を与え続けると寄生虫や病気の原因となるため、とらふぐの健康管理が第一となります。とらふぐの適水温度は22~24℃であり、この時期に成長を促す必要があります。また、8月~9月はとらふぐの骨格形成の時期であり、体長が伸びます。この時期に寄生虫や病気が出た場合、骨格形成が不十分となるため、出荷時期が遅くなるケースもあります。10月からは体長の伸びに加え、魚体重も増加していきます。海水温度が20℃を切る11月から、とらふぐの雄の白子が成長を始め、2月に1番大きく成長します。この時期から市場からとらふぐ身欠きや、贈答品の注文も増えていきます。また、2kg以上のとらふぐになれば、白子が500g以上になることもあるため、注文が殺到することもあります。

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とらふぐの出荷は、業者より指定サイズの注文が来るため、水槽に入りタモ網で1匹1匹丁寧にすくいます。とらふぐを見た瞬間にサイズが分かるまでには、5年以上は経験が必要です。出荷は主に魚を運ぶ活魚車で行います。活魚車には、トラックに水槽が完備され、酸素や水温の調節もできる特別な車両です。市場や加工場への水槽搬入の際も、傷がつかないよう、丁寧に行います。

第14話は、ここまで。第15話をお楽しみに。

天草海産 3代目 〝福の宅配人〟太田雄三

第13話  天草とらふぐの稚魚受入から出荷まで -稚魚編-

2014.9.17 カテゴリー:とらふぐのあれこれ, ふぐの種類と生態

水槽を泳ぐ〝天草とらふぐ〟の水中写真です。

水槽を泳ぐ〝天草とらふぐ〟の水中写真です。



とらふぐのシーズンは、秋のお彼岸から春のお彼岸まで(秋分の日前後3日~春分の日前後3日)と言われています。つまり、9月20~26日~3月18~24日までの時期を、とらふぐのシーズンと言われているのです。これは、成長した天然のとらふぐが産卵のために日本沿岸に近づく時期であり、また、〝鍋の王様〟てっちりと言われるように、温まる料理が恋しくなる、日本のふぐ文化と言えるでしょう。しかし養殖とらふぐは、技術の進歩(飼育方法の改善や餌の品質向上、動物用医薬品の開発)など、通年美味しいとらふぐを提供できるようになりました。とらふぐ=冬、という考え方は、天然とらふぐにまつわる様です。しかし、養殖とらふぐの雄は、秋から冬にかけて白子が成長するため、やはり、冬が旬と言えるでしょう。

それでは、天草海産の稚魚受入から出荷までの流れをご紹介したいと思います。

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稚魚は、4月から5月にかけて受入します。稚魚の体調は約7cm、体重は約10gです。稚魚とは言えども、お腹を膨らませる姿や形、どれをとっても立派なとらふぐちゃんです。4月から6月は、朝方から夕暮れまで5回以上餌やりをします。7月から8月は3回、9月から10月は2回、11月から3月までは、水温に合わせて給餌しない日もあります。とらふぐの状態によって、EP(配合飼料)やMP(鰺や小女子、アミなどを、造粒機(餌を攪拌し、ペレット状に作りだす)を給餌し、健康第一に養殖しています。

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とらふぐを養殖する上で一番大変なことは、歯切りです。歯切りとは、専用のニッパで丁寧にとらふぐの上下の歯を切る作業のことです。歯切りは、5月から7月の間に4~5回行い、春先の3月に1回行います。天草海産は、22~24万匹のとらふぐを養殖しているので、年間の1/4、約90日は歯切りの作業を行っています。歯切りは、眼も疲れますが、何と言っても手作業なので腱鞘炎になることがよくあります。私も4年前に箸も使えない状態になったので、腱鞘炎の手術をしました。とても痛かったです(泣)。とらふぐ養殖=腱鞘炎とまでは言いませんが、〝職業病〟というかっこいい病名をお医者さんから命名されました。

とらふぐの選別作業の様子です。大、中、小にサイズ分けしています。

また、とらふぐの成長に合わせて、分養(間引き作業)を行います。分養の時期は決まっていませんが、飼育密度を調整することにより、とらふぐのストレスを軽減します。天然とらふぐは、奇麗な砂地で悠々と生活するのに対し、養殖とらふぐは、飼育密度の高い水槽で成長していきます。人間にたとえれば、6畳の部屋に5人や10人で生活すれば、ストレスがたまるのと同じです。子供の成長に合わせて、1人部屋を与えたり、リフォームすることと同じ作業なのです。とらふぐも人間と同じように、ストレスを感じれば病気になることもしばしばです。天草とらふぐは、より自然界に近いストレスの少ない養殖を心がけています。

 

第13話は、ここまで。第14話をお楽しみに。

天草海産 3代目 〝福の宅配人〟太田雄三

第12話  とらふぐの毒(テトロドトキシン)について シリーズその③

2014.9.14 カテゴリー:とらふぐのあれこれ, ふぐの歴史について, ふぐの種類と生態

水槽を泳ぐ〝天草とらふぐ〟の水中写真です。

水槽を泳ぐ〝天草とらふぐ〟の水中写真です。



ふぐ毒(テトロドトキシン)については、第3話と第11話で解説してきました。

沢山の方から、ふぐ毒(テトロドトキシン)について、お問い合わせを頂いていますので、最近の動向も踏まえて解説していきます。圧倒的に多い質問です。

・養殖のとらふぐには、ふぐ毒(テトロドトキシン)はありますか?

・ふぐ中毒になればどの様な症状になるのですか?

養殖とらふぐは、配合飼料のEP(エクストルーデッドペレット)や食用の鰺や小女子、アミなどを、造粒機(餌を攪拌し、ペレット状に作りだす機械)で作る、MP(モイストペレット)が一般的です。

初めに陸上とらふぐは、陸上に専用のプールを設け、海水をポンプで汲み上げて養殖を行っているため、餌となる他の食物を口にすることがほとんどありません。

次に海面とらふぐは、筏(いかだ)に網を張り、その中でとらふぐを養殖しています。網の間から入る他の侵入物がゼロではないため、陸上とらふぐより餌となる他の食物を口にする可能性は高くなります。

最後に天然とらふぐは、自然界の海で生活しているため、沢山の種類の餌を食べています。11話でも触れたように、ツムギハゼやヒョウモンダコ、また、数種類の貝類、棘皮動物、甲殻類からもふぐ毒(テトロドトキシン)が検出されており、ふぐ毒(テトロドトキシン)を食べる可能性は、高くなります。

最近の研究で、養殖とらふぐのふぐ毒(テトロドトキシン)について、解明されてきました。

以前は、とらふぐ=ふぐ毒(テトロドトキシン)という考え方が一般的でした。しかし、11話でも触れましたが、谷博士の研究で、①種類差、②臓器差、③個体差、④季節差、⑤地域差でふぐ毒(テトロドトキシン)の強さが異なることは紹介しました。

最近の研究で分かったことは、ふぐ毒(テトロドトキシン)は、食物連鎖によって蓄積されているということです。これは、とらふぐ養殖業者にとって朗報であり、天然のとらふぐと養殖とらふぐのふぐ毒(テトロドトキシン)の強さが異なることになります。いわゆる、内因性(ふぐ毒はふぐ自身が作りだすもの)と考えられてきましたが、外因性(餌を食べて蓄積する)のものであり、食物連鎖に由来することが明らかになりました。

結果、陸上とらふぐ<海面とらふぐ<天然とらふぐの順で毒性が強いと考えられます。

次にふぐ中毒について考察します。

症状としては、4段階に分けられます。

第1度【中毒の初徴】

口唇部と舌端部の軽いしびれで、摂取後20分~5時間以内です。

第2度【不完全運動麻痺】

運動麻痺はふぐ中毒で最も特異とする症状であり、知覚麻痺や言語障害も著名になります。

第3度【完全運動麻痺】

血圧降下、呼吸困難、チアノーゼ(爪や唇が青紫色になる)が現れ、嚥下が出来なくなります。

第4度【意識消失】

意識不明になり、呼吸が停止し、死に至ります。

最後に、ふぐ毒(テトロドトキシン)の特徴について解説します。

①純粋なふぐ毒(テトロドトキシン)は、無色、無味、無臭である。

②水や水に溶けない有機化合物には溶けないが、微酸性の水には溶ける。

③微酸性液中では安定だが、強酸性液中では容易に分解する。アルカリ性液中でも分解し、毒性を失う。

④湿熱及び乾熱に抵抗し、毒性を失わない。

⑤紫外線、太陽光線の照射には抵抗性が大きい。

⑥消化酵素に分解されない。

⑦免疫性が全くない。

⑧動物膜を浸透しやすい。

ふぐ毒(テトロドトキシン)は、本当に怖いですね。ふぐ毒について正確な情報を知っていただき、これからも天草海産は、安心・安全なとらふぐをお届けします。

第12話は、ここまで。第13話をお楽しみに。

天草海産 3代目 〝福の宅配人〟太田雄三