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第11話  とらふぐの毒(テトロドトキシン)について シリーズその②

2014.8.31 カテゴリー:とらふぐのあれこれ, ふぐの歴史について, ふぐの種類と生態

水槽を泳ぐ〝天草とらふぐ〟の水中写真です。

水槽を泳ぐ〝天草とらふぐ〟の水中写真です。



ふぐ毒の第1人者として、田原良純博士と覚えていただきたい。田原博士は、1899年、日本国最初の薬学博士となり、1907年、分離に成功したふぐ毒を、フグ科の学名 Tetraodontidae(4枚の歯板を持つものの意)と、毒を意味するトキシン toxin から、テトロドトキシンと命名しました。

1950年、横尾晃博士によって、初めて卵巣からふぐ毒(テトロドトキシン)の結晶の抽出に成功しました。1960年代に入り、ふぐ以外の動物にもテトロドトキシンが存在することが明らかとなりました。ふぐ毒(テトロドトキシン)は、奄美大島以南の生息するツムギハゼや、暖海性のヒョウモンダコ、カリフォルニア産イモリ、コスタリカ産のカエルからも報告されています。また、数種類の貝類(ボウシュウボラ、バイ、オオナルトボラ、アラレガイ、ハナムシロガイ)や、棘皮動物のトゲモミジガイとモミジガイ、甲殻類のスベスべマンジュウガ二からもふぐ毒(テトロドトキシン)が検出されており、テトロドトキシンの分布は大きく拡大しました。純粋なふぐ毒の人の対する致死量は0.5~2.0mgと見られており、化学式では、C11H17N3O8、青酸カリの約1000倍に匹敵する毒力だともいわれる猛毒です。現在、フグ毒の検出にはマウス試験法が用いられ、体重20gのマウス(ハツカネズミ)1匹を30分で死亡させる毒量を1MU(マウス・ユニット)と定められています。臓器1g当りの毒量をMUで表したものが毒力(MU/g)です。

ふぐ毒量は次式で求められます。

毒力(MU/g)×その臓器の全重量(g)=毒量(MU)

例えば、臓器100gの抽出毒で体重20gのマウスを100000匹死亡させたとすれば、臓器100g中の全毒量は100000MUで、毒力は1000000MU÷100g=1000MU/gとなります。また、大人1人に対するふぐ毒の最少致死量は10000MUと推定されています。

谷巌博士は、ふぐの毒性を次の4段階に区分しています。

無毒 10MU未満           1kg以下では致死量にならない。

弱毒 10MU以上100MU未満     100gから1kgで致死量となる。

強毒 100MU以上1000MU未満     10gから100gで致死量となる。

猛毒 1000MU以上         10g以上で致死量となる。

更に谷博士は、ふぐには季節差があり、産卵期直前の卵巣や肝臓は最も毒性が強く、産卵後は毒力が減退することを明らかにしています。また、同じ種類でも個々のフグによって毒力の差があり、個体差が大きいのも特徴です。また同じ種類のふぐでも地域によって毒性が異なるという、地域差もふぐの毒性の特徴として最近注目されています。
このようにふぐの毒性または頻度については、①種類差、②臓器差、③個体差、④季節差、⑤地域差が特徴としてあげられます。

最後に、〝ふぐの王様〟とらふぐの最高毒力と最大毒量を紹介します。卵巣は、500MU/gで12000MU、肝臓は、500MU/gで10000MU、最大毒量を合計すると、13000MUとなり、致死人数は13人になります。ちなみに、〝ふぐの女王〟マフグは、最大毒量を合計すると、332400MUとなり、致死人数は33.2人になり、とらふぐの約3倍の毒力になります。また、マフグは皮にも強毒があり、ふぐの種類や部位によってふぐ毒(テトロドトキシン)の強さが異なることを覚えて頂きたいです。また、とらふぐ処理師が調理したとらふぐは、安心安全であることに変わりありません。くれぐれも、ふぐ=毒ではありませんのでご理解ください。

第11話は、ここまで。第12話をお楽しみに。

天草海産 3代目 〝福の宅配人〟太田雄三

 

第10話 とらふぐ料理について  入門編-シリーズその②

2014.8.20 カテゴリー:とらふぐのあれこれ, ふぐの歴史について

〝海の宝石〟とらふぐ白子

〝海の宝石〟とらふぐ白子

とらふぐの白子は、雄の2年魚の秋~冬に徐々に成熟します。白子は、2本の精巣の上部がひっついた状態になっています。未成熟期は、小指ほどの大きさでコリコリとして固く、成熟した白子は、表面、断面共に白色で、ヨーグルト状です。昨年、天草海産のとらふぐの白子で1番大きかったのは、1匹あたり550gでした。奇麗な白子は、全国の市場からも好評で、特に1月~2月にかけて、注文が殺到しました。

ところで、とらふぐの白子を中国では何と呼ばれているかご存知ですか?

中国四大美人とは楊貴妃(ようきひ)、王昭君(おうしょうくん)、西施(せいし)、貂嬋(ちょうせん)の4人ですが、白子の美味しさを、西施の乳に例えられて、西施乳と呼ばれました。

 【美味しい召し上がり方】
白子鍋
鍋のお供にお玉などで形が崩れないように丁寧に鍋に入れます。5分ほど火を通し、ポン酢でお召し上がりください。

焼き白子
ホイルに白子を乗せ、オーブントースターで軽く焦げ目がつくまで焼てください。ポン酢やお塩でお召し上がりください。

白子天ぷら
十分に水分をふきとり、適量の片栗粉、天ぷら粉を付けて、170~180℃で揚げてください。ポン酢や塩でお召し上がりください。

コラーゲンとらふぐ皮

〝コラーゲンとらふぐ皮〟

とらふぐの皮は3層構造になっており、外側からシャミ皮、本皮、とうとう身の順番です。本皮ととうとう身は、包丁でこさげば簡単に剥がれますが、シャミ皮と本皮も処理は皮引きと呼ばれ、皮から棘(とげ)を取り除く作業です。この皮引きの作業は、見た目以上に難しく、匠の技と時間を要します。ですから、天草海産の加工場には、シャミ皮と本皮を取り除く、皮すき機を導入し、繁忙期に皮すき機が大活躍しています。

皮の部分に多くのコラーゲンを含み、美容と健康には最適な食品と言えます。コラーゲンは肌に潤いを与え、水晶体や角膜などの、ハリを保っています。常にコラーゲンを補給すれば、老眼などの予防も期待できます。コラーゲンは体を構成する基本的な成分ですが、年をとると体内で合成する力が衰えますので、適度に摂取することにより、それぞれの部位においては常に若々しさを保つことにつながります。

【美味しい召し上がり方】

とらふぐの皮は、湯引きをし、ポン酢と薬味で召し上がるのが通常です。サラダや和え物にしてもコリコリとした食感を楽しむことができます。本皮ととうとう身の2種類の皮の食感が楽しめ、また、酒の肴のも相性抜群なので、やみつきになる方も多いようです。

〝至福の一杯〟ひれ酒

〝至福の一杯 ひれ酒〟

鰭(ひれ)は、背びれが1枚、胸びれが2枚、臀びれ(しりびれ)が1枚の計4枚あります。鰭を干して、焼いて、熱燗で頂く…。鰭で日本酒を飲むという、粋な発想に驚かせられます。鰭を焼くことにより生臭みが無くなり、至福の一杯を味わう事が出来ます。火を付けてアルコールを飛ばし、まろやかさを味わうのも良し、火を付けず、酒に溶け出す鰭の旨みを味わうのも良いでしょう。飲み比べると、ひれ酒の奥深さを堪能できると思います。

【美味しい召し上がり方】

熱燗のお酒(70~75℃)に「焼きひれ」を入れ、蓋をし、約2分ほどそのままにして置きます。直接電子レンジで熱燗にする時は、約1分加熱して下さい。レンジにかけすぎますと溢れますのでご注意ください。蓋を少しずつ取りながら火をつけると、アルコールが飛び、より美味しい〝ひれ酒〟としてお召し上がれます。焼きひれは、一合のお酒に1~2枚が最適です。

 

第10話は、ここまで。第11話をお楽しみに。

天草海産 3代目 〝福の宅配人〟太田雄三

第9話 とらふぐ料理について  入門編-シリーズその①

2014.8.19 カテゴリー:とらふぐのあれこれ, ふぐの歴史について

水槽を泳ぐ〝天草とらふぐ〟の水中写真です。

水槽を泳ぐ〝天草とらふぐ〟の水中写真です。


   とらふぐの身は、高たんぱく・低脂肪で、他の白身よりさらに脂質が少ないという特徴を持つことで知られています。とらふぐの白身は、100gあたり85kcalの低カロリーで生活習慣病など気にする人には、絶好のダイエット食と言えます。また、とらふぐの身のたんぱく質には、旨み成分となるアミノ酸が多く含まれています。甘み成分であるグルタミン酸、甘み成分であるグリシンなどとらふぐ特有の旨みを形成しています。他の魚より、旨味と甘味が多く含まれ、また、少量の苦み成分であるリジンが加わり、食べた時に”おいしい”と感じるのです。また、ビタミンB2やナイロシン、タウリンも含まれており、細胞の再生やエネルギーの代謝を促進し、健康な皮膚、髪、爪をつくり美肌効果にも最適です。

 とらふぐの身は、生で良し、焼いて良し、揚げて良しと、3拍子揃った白身です。食感は弾力があり、火を使った料理では、鶏肉に近い食感です。とらふぐの身は沢山の食べ方があるので、少し紹介します。

  〝刺身の芸術品〟てっさ(とらふぐ刺身)

 てっさ(とらふぐ刺身)は、〝刺身の芸術品〟とも言われ、薄引きした刺身がお皿の絵を一層引き立てます。また、厚引きはより食感が良く、とらふぐの旨味と甘味を瞬時に味わう事が出来るので、おすすめです。ただ私が、食いしん坊なだけかもしれませんが…(笑)また、とらふぐの身を火で炙って食べるたたきも、本当に絶品です。最近は、イタリアレストラン等で新しいメニューとして、〝とらふぐのカルパッチョ〟が秘かなブームとなっています。

  〝鍋の王様〟てっちり(とらふぐ鍋) 

 とらふぐ鍋は、〝鍋の王様〟と言われ、ふぐちりまたは、てっちりとも呼ばれます。とらふぐの食感は、もちもち感とホクホク感で、食通をも納得させる程です。

≪美味しい召し上がり方≫

   土鍋または鉄鍋に昆布と水を入れます。沸騰したら、ふぐを2~3切れの割合で入れます。再び沸騰したら、あくを取りながら3~5分炊き、ポン酢でいただきます。ふぐを取り分けたら、お好みの野菜を入れます。同じようにして、ふぐ、野菜の順で炊いていきます。ふぐちりは、お好みでもみじおろし、小ネギを入れたポン酢が一般的です。

◎旬の野菜やきのこ類、豆腐などを加えますと一層美味しく召し上がれます。

   〆はやっぱり、とらふぐ雑炊。

 てっちりの後は、やっぱり、とらふぐ雑炊ですね。とらふぐの旨味と甘味が濃縮されたスープをお米に吸わて味う、極上の雑炊で身も心も温まります。私のオススメのとらふぐ雑炊は、とらふぐの皮を適量鍋に入れ、コラーゲン雑炊にして食べる事です。雑炊にとろみと濃くが増し、1ランク上のとらふぐ雑炊を頂けます。

≪美味しい召し上がり方≫

残りの野菜を取り出しておきます。塩と薄口しょうゆで味付けをします。炊いたご飯は、あらかじめザルに入れて、流水で洗い、ぬめりを取っておきます。沸騰した鍋にご飯を入れて少し炊いて、とき卵をまんべんなく入れて、火を止めて下さい。

◎お好みで雑炊にネギやポン酢を少々加えて頂くと、大変美味しく召し上がれます。

 〝究極の唐揚げ〟とらふぐ唐揚 

 とらふぐ唐揚は、〝究極の唐揚〟と言われ、唐揚の中の、唐揚とも言われるほど、 老若男女問わず、愛される一品です。 鶏肉に似た食感は、外はカリっと、中はジューシーで笑顔がこごれます。

≪ご家庭で作れる秘伝のレシピ≫

 まず、しょうゆ、片栗粉、塩こしょうを用意します。とらふぐの身をボールに入れ、少量のしょうゆを入れなじませてから、10分ほど寝かせます。その後、塩こしょうを適量入れてなじませ、片栗粉をまぶします。170~180℃の油でカラッと揚げて、お召し上がりください。

◎レモン果汁などをかけますと、一層美味しく召し上がれます。

  〝新しい食べ方〟焼きとらふぐ

 焼きとらふぐは、とらふぐの新しい食べ方として大注目。香ばしい香りは食欲を引立て、 醤油だれと絶妙な食感は、やみつきになること間違いなしです。

≪ご家庭で作れる秘伝のレシピ≫

 まず、しょうゆ、みりん、料理酒を用意します。しょうゆ、みりん、料理酒を2:1:1で専用のたれを作ります。とらふぐの身とたれを袋に入れ、軽くもみます。10分ほど寝かせて、網焼きまたはトースター、もしくはフライパンで弱火で両面をこんがりと焼いて下さい。

◎お好みで少量の味噌、しょうが、ニンニクをたれに加えますと、一味違った焼きとらふぐを召し上がれます。

 ブログを書いていたら、よだれが止まりません…。今日は、とらふぐで乾杯したいと思います(^O^)/

 

第9話は、ここまで。第10話をお楽しみに。

 天草海産 3代目 〝福の宅配人〟太田雄三

第8話 ふぐの歴史を紐解く-ふぐ食の文化編-シリーズその③

2014.8.8 カテゴリー:とらふぐのあれこれ, ふぐの歴史について

水槽を泳ぐ〝天草とらふぐ〟の水中写真です。

水槽を泳ぐ〝天草とらふぐ〟の水中写真です。



2000年前の縄文時代から食べられていたとされる、ふぐ食の文化が残る我が国日本。その食べ方は明らかではありませんが、煮たり、焼いたり、保存食として干しものなどにして食べていたのではないかと言われています。江戸時代から、ふぐ食の文化は少しずつふぐ料理としての形へと変わっていきました。

江戸時代のふぐ食の文化は、ふぐ汁やふぐ鍋です。近海で釣ったクサフグやショウサイフグを、丸むき(頭、内臓、皮を取り除いた部分)にして食べるのが一般的でした。その後、日本の食文化には欠かせない〝味噌汁〟の中に、ふぐの丸むきを入れて食べていたようです。

ふぐ食の文化は、幕末維新の頃に大きく変わり始めました。瀬戸内や玄海灘などの漁場が近いこともあり、とらふぐの終着地として、下関でふぐ刺しやふぐちりなどの料理が開発されました。その後、大阪がとらふぐの消費地として、庶民の味として浸透していきました。昭和20年代は、大阪でのとらふぐの消費が全国の50%以上あったと言われていることから、現在のふぐ料理は、大阪がルーツと言えるでしょう。

一方東京都では、昭和24年ふぐの取り締まりに関する条例を制定し、全国で初めてふぐ調理師の試験が行われています。条例では、都知事が行う試験に合格したふぐ調理師以外の人がふぐの取扱いに従事することを原則として禁止しています。また、飲食店や魚介類販売店などでふぐを取扱う場合、店舗ごとに専任のふぐ調理師を置き、都知事の認証を受けることが義務付けられています。

平成24年10月から、これまでふぐ調理師でなければ取り扱えなかったふぐ加工製品について、ふぐ調理師以外の人でも一定の条件を満たせば取扱うことができるようになりました。とらふぐ生産者は、東京での販路拡大により、安定した消費が望めることを喜んでいました。しかし実際は、とらふぐの消費は伸び悩み、低価格なシロサバフグやショウサイフグ、マフグの需要が高まっただけでした。とらふぐ生産者は、期待が大きかったことから、肩透かしを食らってしまいました。

話は戻りますが、私は幼少期に大阪で育ち、〝タコ焼き〟と〝とらふぐ〟は、大阪府民の食べ物としてなくてはならないものでした。とらふぐの専門店だけではなく、居酒屋でも欠かせないメニューになっています。また、とらふぐをお歳暮として贈ったり、スーパーやデパート、大阪の台所として有名な黒門市場でとらふぐを買って、ご家庭で食べる習慣も大阪のふぐ文化と言えます。年末には、黒門市場では、飲食店以外のお店にもとらふぐが店頭に並び、1日10万人のお客が足を運びます。そのお目当ては、カニやマグロ、そして何と言ってもふぐの王様〝とらふぐ〟です。食いだおれの街〝大阪〟は、美味しいとらふぐを食べられる国民の台所と言えるでしょう。大阪に行かれた際は、ぜひ本場のとらふぐを味わってください!!

第8話は、ここまで。第9話をお楽しみに。

天草海産 3代目 〝福の宅配人〟太田雄三